尾根の狼のお産とひと七夜の見舞い
どんな伝承か
長野県上伊那郡の戸台では、竹沢長衛の家のあるフジブクロという場所から二百メートルほど離れた高い尾根筋の、ボケの藪陰で、ある年狼が子を産んだ。狼は歩くにも山の尾根を通り路に選ぶ獣なので出産も尾根で行われることが多く、人間を警戒するのに都合がよいからだと戸台の人々は解していた。出産のあとは夜の六、七時ごろになると決まって狼が恐ろしい声で鳴き、その声が村うちにも聞こえてくる。黙って放ってもおけないというので、出産七日目に庄屋の達しで赤飯を炊き、お産見舞に狼の巣へ持っていった。この儀礼を伊那谷ではひと七夜、お七夜祝いと呼んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。