業平とみよしのの里の娘
どんな伝承か
東国を旅した在原業平は、今の川越にあたるみよしのの里で、田舎には珍しい美しい娘を見初め、両親に交際を申し込んだ。娘にはすでに許婚がいたため、義理堅い父は断ったが、母は都の身分ある男に娘を近づけたがった。この母はもとは都から武蔵へ遣わされた藤原一族の娘で、土地の若者と恋をし、親が都へ帰った後もこの地に残って娘を育てた人だった。母は娘に代わって、田の面の雁もひたすらあなたの方に寄ると鳴いている、という意味の歌を贈り、二人はしばらく親しく過ごした。だが業平はやがて飽き、その雁のことはいつまでも忘れまいと歌を返して都へ帰ったという。
原典より
今の川越、すなわち「みよしのの里」に来たとき、彼は田舎には珍しく美しい、一人の乙女を見出した。—— 江戸動物民話物語(窪田明治) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸動物民話物語(窪田明治)
『江戸動物民話物語』は、「郷土史・東京」の刊行会を主宰した窪田明治が、東京の郷土史を調べた材料から江戸の民話を選んでまとめた本である。狐や狸、猫、蛇が人を化かし、恩を返し、祟る話を中心に、本郷・王子・向島・麻布・三田など東京各地に伝わる話を収める。狐・狸・猫・蛇・不思議な生き物の五部に分け、一話ごとに舞台となった土地の史跡や寺社の由来、沿革の解説を添え、まえがきとあとがきを付す。