残した梅の実の梅干しが防いだ腸チフス
どんな伝承か
昭和一八、九年頃、角館での話。畑の隅に古い梅が二本立っていた。実の付きは悪いのに葉ばかり茂り、日陰をつくって周りの作物の育ちを妨げる。食糧の乏しい時期でもあり伐ってしまおうという話になったが、家のおばあさんが、先祖から受け継いだ木を切るのかと承知しない。結局その年は見送った。すると翌春、どういうわけか例年になく実が付き、おばあさんはそれを梅干しに漬けた。その夏、あたり一帯で腸チフスが流行り、近所の者は次々と隔離されていく。この家では悪い病を寄せつけないと信じて毎食その梅干しを口にし、一人も患者を出さずに済んだ。以前、野火が迫ったときにも守ってくれた木だと、おばあさんは語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。