足をかけた倒木が大蛇だった谷
どんな伝承か
東祖谷山の与市谷というところは、池田町から一三里余りもある所である。語り手が山仕事に行った五〇年ほど昔より、さらに一〇年ほど前の夏、土地の男が与市谷でアメゴを釣っていた。昼飯時になったので谷ぶちの岩に腰を下ろし、目の前の腐りかけた太い倒木に両足をかけて背伸びをすると、太い長い倒木がそろりと向こうへ寄った。腐っているのかと右手を見上げると、馬の頭の倍もありそうな大きな蛇の顔が倒木へ続いていた。金色に光る目玉がこちらを見つめ、大きな口先から紫色の舌をぺろぺろと吐き出す。男は声も立てられず、無我夢中で家へ逃げ帰った。それから寝込んで大熱になり、七日七夜苦しんで八日目に死んでしまったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。