女房に化けて酒盛りを誘う狐
どんな伝承か
十年ほど前、田名部高校の講堂に歌手が来て、集落のおかみさんたちはそろって聞きに出かけた。営林署で働く男は、どうせ家に帰っても女房はいないだろうと、関根の店で酒一升と身欠きニシンを買い、高梨へ向かう道を一人歩いてきた。途中、歌を聞きに行ったはずの女房が現れて手招きし、杉林へ連れこんで、たまには山で二人で酒盛りをしようと言う。喜んで飲んでいると、女房が後ろへ回って腰をどんと蹴った。我に返ると一升瓶は倒れて酒はこぼれ、ニシンは一匹もなく、女房の姿もない。腰が抜けて助けを呼ぶと、聞き覚えのある声だと畑の人たちが林に入り、家まで送ってくれた。ニシン欲しさに女房に化けた狐の仕業だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
むつ市史 民俗編(むつ市史)
『むつ市史 民俗編』の口承の章から、下北に伝わる伝説と世間話を抜き出したものである。苫生野や田名部川の口碑、蠣崎氏や落人の宝の伝え、恐山の開基と天狗・霊話、常念寺の仏、横迎町の竜神と河童、行人塚、半太窪、飯綱の噂、奥内・関根・大湊・田名部の狐の話などを収める。菅江真澄の紀行の記事を引きながら、むつ市とその周りの土地の伝えをまとめている。