山中に響く天狗倒しの音
どんな伝承か
杣夫やマタギのあいだでは、天狗倒しや天狗返しといった怪異が近年まで信じられてきた。奥羽脊梁山脈の奥深い山で、炭焼小屋や岩窟に泊まっていると、夜中に木を伐る音が聞こえ、やがて大気を震わせて大木の倒れる音が響きわたる。ところが翌日その場へ行ってみても、倒れた木など何ひとつ見当たらない。山ではこれを空木返し、木伐り坊とも呼び、天狗の仕業とした。伐木で圧死した者の霊のしわざだという土地もあり、狸や狢の悪戯ともされた。燃えさしの棒を投げつけると四、五日は静まり、また始まった翌朝には小屋の周りに狢の足跡が残っていたともいう。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。