呼び声で飼い主を決めた猫の裁き
どんな伝承か
日本橋区上槇町の医師平野方へ住み込んだ書生の竹森藤一郎は、前の冬に本郷の下宿を引き払う際、飼い猫のマルが見つからず置いたままにしていた。正月三日、年始回りのついでに旧居のあたりを探すと、湯島新花町の理髪店の前でマルが日向ぼっこをしている。抱き上げたところ店の女房はるが飛び出し、うちの猫を盗るなと騒いで掴み合いになり、二人は本郷警察署へ引かれた。双方が飼い主だと譲らないので、係官は大岡裁きに倣って交互に猫を呼ばせた。はるの声に猫は知らぬ顔をし、竹森が呼ぶと足元へすり寄る。年齢の申し立ても獣医の鑑定と合い、猫は竹森に渡された。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。