夫の舌を噛み切り塩酸をあおった妻
どんな伝承か
明治四十一年九月、神奈川県都筑郡都岡村川合の鋳掛兼灸点業石井栄吉三十五歳の妻まさき三十三歳は、ヒステリー症にかかった結果、非常に接吻を好むようになり、朝から晩まで暇さえあれば夫に接吻を迫った。二十二日午後三時頃、まさきは突然栄吉の舌を噛み切り、自分も自ら舌を噛み切った。栄吉は外聞を憚って秘密にし、最寄りの医師の治療を受けていたが、いつしか世間に漏れて駐在巡査の耳に入り、翌日、都岡警察署から巡査部長が出張して取り調べた。栄吉の舌先には二枚の歯痕があり全治二週間ほど、まさきは警官の出張を見て急に恐れを抱き、職業用の塩酸を呷って自殺したという。
原典より
神奈川県都築郡都岡村川合番地不詳、鋳掛兼灸点業石井栄吉(三五)の妻まさき(三三)と云へる女は、ヒステリー症にかかりし結果、非常に接吻を好むに至り、…—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。