流産した胎児の口から出てきたもう一人の胎児
どんな伝承か
大正五年三月の十二、三日頃、京都市北野に住む松川やえ(仮名)三十五歳という妊娠六ヶ月の女が、腹が張って息苦しいと京都大学病院で診察を受けたところ、急性羊膜水腫だろうとの診断で直ちに入院した。翌日、流産の手術を行うと、逆子で生まれたのは女子で四肢五体は何不足なく備わっていたが、不思議にも頭部は扁平に打ち毀たれ、口腔から大きな臓腑のようなものがはみ出していた。執刀した徳岡・松村両学士が妊婦には秘してそれを検べると、臓腑と見えたものは全く一個の胎児で、一部は四肢が完全であった。非相対の双胎児に属する稀有の畸形児と決定されたという。
原典より
両三日前(十二、三日のこと)京都市北野に住む松川やえ(仮名) 三十五歳という妊娠六ヶ月の女が、腹が張って息苦しく困るとて、京都大学病院に至り診察を受けたるに、…—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。