滝壺で髪を梳く六尺の裸女
どんな伝承か
弘前の平尾魯仙が著した『谷の響』一之巻の「山婦」による話である。井筒村の農夫三人が連れ立って羽州田代岳の神に参詣し、その帰りに路を外して険しい渓谷へ出た。谷を伝って下れば麓に出られると三町ばかり進むと、百尺の懸崖が滝となって道を絶っていた。三人が岩の突端に腹這いになって谷底をのぞくと、六尺ばかりの女が真っ裸で滝壺のかたわらに坐り、長い髪を水に浸して梳いていた。驚いて立ち去ろうとするうち、水が大雨を逆さに懸けたように弾け上がり、雲霧が谷に起こって風雨が山中に鳴りわたり、胡桃ほどの霰が木の葉を地に払った。三人はやっと六、七町を走り下った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。