紀伊の国坂で顔を撫でた女
どんな伝承か
城下町の道にはさまざまな妖怪が出た。よく知られるのがのっぺらぼうで、目も鼻も口もなく蒟蒻に似ているという。小泉八雲もこれに材を取っている。夜更け、東京の紀伊の国坂を通りかかった商人が、堀端にうずくまって泣く女を見つけた。身なりのよい娘なので身投げでもするのかと案じ、声をかけ続けると、女はやっと振り向いて片手で自分の顔を撫でまわす。目も鼻も口もない。逃げた先の屋台のそば屋に訴えると、そば屋は、お前が見たのはこんなものかと言って同じように顔を撫でた。その顔も同じで、提灯の灯は消えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。