天狗に剣を学んだ定光村の男
どんな伝承か
阿波の国美馬郡の定光村に、生まれつき白痴同様の男がいた。その男が山中に迷い、天狗と出会った。天狗は『その方も学べば人に秀でた者になる』といって、書と剣を教えた。男は毎日山中に入って修行を重ね、みるみる上達してまるで別人のように変わり、その名は評判となって阿波徳島藩は彼を剣の師範役に迎えた。やがて上役が妻帯を勧めたが、男は天狗を師とする戒めで妻帯を禁じられていると断った。しかし家の廃絶を説かれて妻を貰うと、とたんに学問と剣の霊力を失い、もとの白痴同様に戻った。この男は明治維新後まで存命していたという。
原典より
天狗は、その方とて学ばば、人に秀れたる者になる、といい、書と剣を教えてくれた。—— 怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。