蜘蛛の巣と沼に浮かぶ三つの焼け首
どんな伝承か
江戸の中頃、秋田街道の宿場大曲が火事で焼けた。春先の乾きでたちまち焼き尽くし、多くの焼死者が出た。大半は旅の者で身元も知れず、無縁仏として葬られた。宿場の飯盛女も混じっていた。やがて旅籠が建ち直り、夏前には以前より賑やかな町になって、秋口には火事も忘れられていた。山へ茸を採りに入った百姓が、光る蜘蛛の巣に焼けただれた首が三つ掛かっているのを見た。首は焼ける焼けると叫び、逃げながら振り返ると首は消えて巣だけが残った。別の百姓が大沼へ釣りに行くと、水を呑む音がする。見れば焼けた首が三つ水を呑んでおり、女の首がこちらを見て笑った。旅籠で買った飯盛女であった。大沼は今は埋められて残っていない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。