淵の底の屋敷と変事の太鼓
どんな伝承か
「東奥古伝」にある。和賀川の流域に二つの淵があり、一つは貝殻淵、下流は御前淵といった。田代六処の喜作という者が淵の上で木を伐っていて斧を底に落とし、取ろうと淵に入った。底は野原になっていて、向こうに御殿と呼ぶにふさわしい屋敷があった。門から入ると美しい娘が出てきて、木を伐って林を荒らすので迷惑だ、それで斧を取りあげたと言った。生業だと訴えると、淵の上の木だけは伐るなと言って斧を返し、栗子の種子を数粒くれた。門の脇の太鼓は和賀家に変事があったとき打つものだという。喜作の植えた栗は年々三度実った。ある時、喜作は太鼓の音を耳にし、和賀の殿が伊達政宗に謀られて自害したのはそれから間もなくであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。