夢の告げを逃した椿谷の黄金の魂
どんな伝承か
天明から寛政のころ、著者の姻戚河野家の先々代源兵衛は、松江侯の別荘地だった城下の東郊、市成村のお山で山奉行を務めていた。配下の山番紋助の夢に見知らぬ男が三晩続けて現れ、椿谷の椿の根もとに長く埋もれている宝を掘り出してくれと頼んだ。欲の夢だと打ち消して見なくなった数日後の夜、家の横の山の裏の椿谷から大きな光り物が南へ飛び去った。夜明けに行ってみると、椿の大木が根ごと跳ね返って大穴が開き、土砂が一面に散っていた。紋助はあれこそ黄金の魂だったと悔やみ、酒が入るたびにこの話をこぼしたという。
原典より
一本の大きい椿の木が、火藥か何んぞに吹返へされたやうに根から刎返り、跡に大穴が開いて、そこら一帯一面に土砂が散亂して居るさまは、何かゞ豪勢に飛出た跡としか見られませんので、…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。