中橋の絵師宅から連れ出された若侍
どんな伝承か
将軍家の御用絵師狩野永徳の中橋の居宅に、島津藩の若侍中川右内が内弟子として住み込んでいた。ある年の十二月二十二日、二階で鏡を見ながら髭を抜いていると、背後に見知らぬ僧が映った。僧は門外へ誘い、鎌倉の光明寺で餅の振舞いがあるから同道せよと言って腕を取る。断っても力が強く、右内は中橋から品川通りへ引き立てられたが、道行く人は誰も咎めない。日が暮れたころ僧は、振舞いは終わったから帰れと言い放った。腹を立てた右内が抜き打ちに斬りつけると僧は掻き消え、刃は松の根に食い込んだ。帰路に一宿した家は、翌日どれほど探しても見つからなかった。
原典より
徳川将軍家の御用繪師狩野永徳の江戸の中橋の居宅に島津藩の中川右内と云ふ若侍が内弟子に入り込んで居た。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。