暗い奈落へ吸い込まれた高熱の夜
どんな伝承か
年末から雪が降り続き、屋根も道もうず高く埋まった冬のこと。正月に風邪をひいた語り手は、かかりつけの医者が注射と内服薬を尽くしても一週間高熱が引かず、当時恐れられた粟粒性肺炎と診断された。ある夜、胸のあたりを泡粒のようなものが小さな音を立てて上下左右に這い回る感覚に襲われ、そのまま暗い奈落の底へずるずると吸い込まれていった。もう駄目だ、自分はこうして死ぬのだと叫びたかったという。数日後に正気づいたが、その間、医者は往診の道すがら、あの子は気の毒だと漏らしていたそうだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。