難産の手術で出た青草と花の野原
どんな伝承か
昭和二十年頃、尾崎の浜岡ひさえは三人目の子を宿して八か月というとき、腹痛とともに出血を繰り返した。産婆に勧められても医者にかかるのを恥ずかしがって寝ていたところ、ついに大量の出血で気が遠くなり、担ぎ込まれて開腹手術を受けた。手術の最中、メスの音や人声、赤子の泣き声が聞こえ、やがて手招きする者に導かれて青草と花に埋もれた広い野原へ出たという。足は驚くほど軽く、空気の香りがよいので思い切り吸い込んだ。誰かに肩を突かれ、せっかくよい心地でいるのにと思った瞬間に目が覚め、夫が顔をのぞき込んでいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。