松並木の道を急いだ仮死の十時間
どんな伝承か
佐々木の友人の母が病んだ折、医師がモルヒネの分量を誤って注射したため、十時間近くも仮死の状態に陥った。夜の九時頃に息が絶え、体もすっかり冷たくなったのに、翌朝方には息を吹き返したので周囲は奇跡だと驚いた。当人が語るには、体は重くだるかったが、行く手に美しい場所があるように感じられ、一刻も早く着きたい一心で松並木の広い道を急いでいたという。後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ、心ないことをすると腹立たしく思ううち、声は耳元まで迫り、しかたなく引き返した。戻るのがひどく厭だったと語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。