バイクの荷台で聞いた礼の声
どんな伝承か
昭和四十年頃の話である。猪苗代湖の西部、山間の無医村の子どもを常に往診していた医師が、ある日の深夜、患者から容態急変の電話を受けてオートバイで出かけた。九十九折の山路を登っていると、後方の荷台に誰かが乗ったような感触があった。深夜の山道で人が黙って乗るのは変だと思ったが、一刻も早くと振り向きもせず猛スピードで登った。すると、ふと耳もとで「先生、長い間ありがとうございました」とかすかな声がした。しまったと思いながら患家に着いたが、その子はすでに息絶えていた。家人に死亡時刻を聞くと、坂の途中で声を聞いた時刻と合致していた。
原典より
二年ほど前、五所川原市の近郊を採訪していて、和島秀子さんという四十すぎの主婦から、死んで生き返ったという人の話を聞くことができた。—— 現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。