荒川橋に立ちふさがる囚人たち
どんな伝承か
明治四十二年一月三十一日、青森でもまれにみる猛吹雪の日、青森監獄の典獄黒木鯤太郎は囚人四十人に荒川の砂利採掘を命じた。身を切る川水に手足をひたした囚人はばたばたと倒れ、死者十人、凍傷者三十人を出した。世にいう黒木典獄事件である。翌年の同じ一月三十一日もまた猛吹雪であった。川村弥太郎という老人が川向こうの我が家へ帰ろうと荒川橋を渡りはじめると、橋の中ほどで何者かにぶつかった。見れば赤い囚人服を着た、目の落ちくぼんだ骸骨のような男が「寒いんだ、あったまらしてくれ」と迫ってくる。振り返ると、後ろにも九人の囚人が立っていた。老人は杖で橋桁を打ち、念仏を唱えているうちに、囚人の姿は消えていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。