金縛りの闇に髪をすく亡母
どんな伝承か
小学校二年の私を頭に三人の息子を抱え、夫に先立たれた母は、生前病弱な私をいつも心配していた。その母が昭和十九年二月に病死した。当時私は母の実家で百姓仕事をしながら、夜遅くまで絵の勉強に夢中だった。昭和二十一年頃のある夜、真夜中に枕元を何かがちょろちょろ走り抜ける気配がし、布のようなもので額を撫でられたかと思うと、足先から胸にかけて重い物がのしかかり、全身が金縛りになった。うっすら目を開けると、祖母の寝ている後ろにぼんやり人影が立ち、うす茶色の着物の女がしきりに右手で髪をすく仕草をしている。まぎれもなく死んだ母だった。題目を唱えると縛りは解けたが、うとうとするとまた同じことが起きたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。