山伏小路に迷い出る山伏の霊
どんな伝承か
徳島市福島に山伏小路と呼ばれる場所があり、藩政のころ御納戸役の中村美作の屋敷があった。ある年の十二月末、外出から帰った中村は玄関に立つ山伏を、明日は母の命日だから回向をと言って泊めた。真夜中、隣室で小判を数える音に気づいた中村は、使い込みの穴埋めにと金の融通を頼み、本山へ納める金だと断られるや背後から首を絞めて殺した。悪事が露見して中村は追放され、屋敷は下条某に下された。以後、屋敷の東の角に毎晩火が出て山伏の姿が現れると噂され、豪胆な武士が確かめると祭ってほしいと訴えた。小さなホコラを建てて祭ってからは出なくなり、山伏小路の名だけが残った。
原典より
それからいつともなく、その屋敷の東の角へ毎晩のようにボッと火が出て山伏の姿が現れるといううわさが立った。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。