蝦ヶ池の主の大エビ
どんな伝承か
年の暮れも迫った十二月二十五日の夜、海部郡浅川村は激しい嵐に襲われ、のちにこれは蝦ヶ池の主が嫁を迎えた夜だと言い伝えられた。蝦ヶ池は海とつながる県下最大の池で、尾が蛇の形をした大エビが主として棲み、落ちた人を長い手を伸ばして捕らえ食うと恐れられていた。主が見初めたのは評判の美人だった土佐国赤岡村の庄屋の娘で、嵐を起こして池へさらってきたのだという。大エビはクジラに追われて土佐の海から逃げ込んだとも、主は大蛇でメヒカリという大魚の見誤りだともいわれる。ほとりの蛇玉神社は主を祭ると伝わるが、神体は蛇を描いた石だったという。
原典より
ここには、昔尾がヘビの形になっている池の主の大エビがすんでいて、その手をのばすと池の辺までとどき、あやまって人が中に落ちると、たちまち手をのばして、とって食うと恐れられていた。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。