灰汁桶
どんな伝承か
信州伊那郡殿島の農家に、親猿と小猿を二匹飼っている者がいた。ある日、主人が野良へ出た留守に、女房が洗濯のため灰汁を焼き、熱灰と一緒に桶へ入れておいた。小猿が桶の縁に上がって遊ぶうちに熱湯の中へ滑り落ちて死んだ。親猿が泣き悲しんでいるところへ主人が帰り、怪我だから諦めろと言うと、親猿は鍋の蓋を持ってきて桶に被せて見せた。主人は意味を悟り、暇をやるから山へ帰れと言った。親猿は恨めしそうに主人を見ながら小猿の死骸を抱いて出て行き、殿島河原の橋を渡って半ばまで行ったところで河へ身を投げて死んだ。
原典より
信州伊那郡殿島の農家に親猿と小猿と二疋飼っていた者があった。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。