駒込病院脇の借家に立つ金歯の女
どんな伝承か
大正八年、日本画家寺崎広業の門下だった阿部広洲は、本郷の駒込病院の脇に借家を見つけて移った。移った晩、伯母と玄関脇の六畳で寝ていると、電灯の光が急に翳り、閉めたはずの襖が消えて隣室が見通せた。畳の上から線香の煙に似た筋が立ちのぼり、しだいに膨らんで二十五、六の女の姿になる。女は笑い、その拍子に口の金歯が光った。伯母は気を失った。翌朝、隣室を検めると焼け痕と黒い斑点があり、近所に尋ねると、直前まで住んでいた文学士の妹が肺を病んで死んでおり、金歯を入れてその部屋で寝ていたと分かった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。