歌舞伎座近くの橋で拾った夢の札束
どんな伝承か
故人となった尾上梅幸が若かったころの話である。夜更けに歌舞伎座の近くの橋を渡ると、橋の中ほどに唐草模様の大きな風呂敷包みが落ちていた。一度は行き過ぎたものの気になって引き返し、結び目から手を差し入れると札束らしい。天の授かり物だと持ち帰って押入に隠した。額を知りたいが、数えるところを家人に見られては困るので、日本銀行に勤める贔屓客に嵩を手真似で示して尋ねると、三万円は下るまいと言われた。梅幸は喜んで遊び歩き、三千円ほどの借金をこしらえたが、払おうとして押入を探ると包みは影も形もない。盗まれた跡もなく、拾ったのは夢だったと気づいた。
原典より
* 画家の死 (280)* 二階の怪婆 (280)* 死んでいた狒々 (282)* 三度笠の旅人 (285)* 千疋猿の鍔 (286)* 屋根の上の黒猫 (287)* 左甚五郎作の大黒天 (2…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。