小犬を抱いて帰ってきた娘
どんな伝承か
ある夜、運転手が護国寺の墓地のわきを流していると、白い小犬を抱いた女が車を停めた。言われるまま逢初橋まで走ると、女は少し待つように言い、犬を抱いたまま降りて立派な門構えの家へ入っていった。一時間近く経っても出てこないので家を訪ねると、老婦人が出てきて、うちに娘はいないと言う。乗り逃げされたかと土間へ目をやると、女が抱いていた小犬がちょこんと坐っていた。この犬を抱いてきた人だと告げると老婦人の顔色が変わり、人相を聞くうちに涙をこぼした。明日が一周忌なので帰ってきたのだという。
原典より
* 濠端の怪 (369)* 通夜の晩 (370)* 丸髷の美女 (371)* 自動車に乗る妖女 (373)* 王子稲荷の前 (375)* 消えてなくなった女 (376)* 日本橋まで (377…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。