日本橋へ急がせた見えない客
どんな伝承か
夜の一時過ぎ、車庫でうとうとしていた運転手が、日本橋まで大急ぎだと叩き起こされた。慌てて跳ね起き、上着を引っかけるなり運転台へ飛び乗って、そのまま日本橋へ走らせた。着いてはみたものの日本橋のどこへ向かえばよいのか分からないので、この辺りでよいかと客の方を見た。ところが座席に客の姿はない。運転手は真っ青になって車庫へ戻り、奥へ駆け込もうとすると、居合わせた同僚に、客を乗せずに出ていく奴があるか、と怒鳴られた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。