手術室の天井から見えた医師の心
どんな伝承か
公表を拒んだある体験者は、臨死体験の最中に、親戚の子が自宅近くの田んぼで凧を揚げて一番になっているのを見た。あとで聞くと、ちょうどその時その子は本当に凧揚げをしていて、しかも普段は凧などめったに揚げない子だったという。尾張旭市の久保田恵子さんは帝王切開の手術中、手術室の天井の隅から自分を見下ろし、医師たちの胸の内まで見えた。懸命に縫う部長の胸は真っ黒で、忘年会の話を続ける医師の胸は真っ白だった。さらに医師住宅の前で黄色い自転車に乗る十一歳の二男、病室で家政婦とうつむく八歳の娘、すしの重箱を抱えて駆けてくる隣家の寺田夫人の姿も見え、運ばれる自分の体について病室へ戻ったという。
原典より
それから、医師住宅の隣の寺田夫人が、私のためにおすしを作り、それを丸い重箱に詰め、それを手に持って、私のほうに一直線に走ってくるのが見えました。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。