黒い川のほとりで聞いた亡父の声
どんな伝承か
1989年六月、天安門事件取材のため訪中していた作家水上勉は、帰国後まもなく成城の自宅で心筋梗塞の発作を起こし、心臓の三分の二が壊死する重体に陥って三日間昏睡した。その間、水上は真っ黒に近い川のほとりに立つ夢とも異なる体験をした。後ろから亡き父に似た声がして冥土だから気をつけろと忠告され、川向こうの赤土の崖を、去年死んだはずの愛犬草太郎に似た白い犬が前足を枝にかけてよじ登ろうとしていたという。水上はこの体験以来、生と死の間に垣根はないと考えるようになったと語っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。