餅を求めて戻った和田二等兵の霊
どんな伝承か
幽霊坂の隣の小路に、巡査あがりの桜井という男が住み、和田という娘が食客としていた。その弟は春に徴兵されて九段の兵営に入ったが、ある日、たちん坊が押し上げていた材木の荷車が九段坂の中途で梶を取られ、坂下へ転げ落ちて弟を圧し殺した。隼町の病院へ駆けつけたときには顔を半分割られて死んでいた。それから十日ほど後、晩酌をしていた桜井の六畳へ、浴衣姿の和田二等兵がひょろりと入ってきて、食事は兵営で済ませたから餅を焼いてくれという。桜井が長火鉢で三つ焼いて運ぶと、六畳には誰の姿もなく、下駄も靴も残っていなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊界五十年(長田幹彦)
『霊界五十年』は、長田幹彦が自らの心霊体験を一人称でつづった随筆集である。霊媒亀井三郎の実験に立ち会った話に始まり、大正十四年に東京中央放送局で見た変死した技師の霊、自殺者の霊、神隠し、心霊写真、死者の霊との交わりなど、長年にわたって見聞きした出来事を語る。「亀井霊媒の実験」「放送局の幽霊」「霊界夜話」「幽霊のキスマーク」などの短い章を連ね、心霊研究の知人や医師との問答を多く交える。