新墓の中で生き返った長者の娘
どんな伝承か
佐々木喜善の『聴耳草紙』に収める話。親に勘当された放蕩息子が当てもなく旅に出て、ある町の近くで路銀を使い果たし、広い墓地の松にもたれて行く末を思案していた。すると新しい墓の土の中から人の泣き声がする。掘り返すと、棺の中で美しい娘が息を吹き返して泣いていた。息子は娘を助け出し、墓を元どおりにして町でかくまう。娘の家は町一番の長者で、娘の死後、番頭と継母が通じて家の財産を奪おうと企んでいた。二人が馬で主人を殺しに向かう途中、息子は娘とともに出くわし、名乗りを上げて討ち果たした。喜んだ長者は息子を娘の婿に迎え、家はますます栄えたという。
原典より
すると目の前の新墓の中で何か呻る声がするので、よくよく氣をつけて聴くと、それは土の中で人の泣く聲であつた。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。