磯良の死霊に備えた四十二日の物忌み
どんな伝承か
『雨月物語』の「吉備津の釜」で、裏切った妻磯良の死霊に出会った正太郎は、友の彦六に連れられて陰陽師を訪ねた。陰陽師は、女が死んだのは七日前だから残る四十二日の間は戸を閉ざして重く物忌みせよ、守れば九死に一生を得るかもしれないと告げ、正太郎の体に古い字体の文字を書きつけ、朱の護符を戸ごとに貼らせた。その夜から、ここにも貼ってあると恨む声が聞こえ、風雨の夜には気を失うほど凄まじく、日を追って鬼は家を巡り棟で叫ぶようになった。
原典より
日がたつにつれて「かの鬼も夜ごとに家を縛り或は屋の棟に叫びて、あきれる聲夜ましにすさまじ」というふうに、怖ろしさは増すばかりであった。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。