飛び去るおつなの首
どんな伝承か
佐々木喜善がまとめた『聽耳草紙』には、婆に食われてしまったおつなという女の話がある。おつなは首から上だけを残して皿の上に載せられていた。その女首は、のちに夫の冷たい仕打ちにあう。飯鉢の中のおつなの首は、夫の仕打ちを憎んで二階からごろごろと転がり落ち、テテッテテッと叫びながら夫の逃げた方へ後を追って行った。夫はたまらず蓬と菖蒲の間に入って隠れていると、首はテテッテテッと叫びながらその頭の上を飛んで行ったという。鬼といってよい婆に食われた女が、自身も鬼となってゆく過程と、空飛ぶ首のかたちがここには語られている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が著した日本文学の幽霊論である。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『今昔物語集』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じたのち、物語・説話・能と歌舞伎・近代の章を立て、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。