一人だけに見えた恐ろしげな山伏
どんな伝承か
『古今妖魅考』に、下総の国香取郡万歳の後山へ、村の者ども五人が連れ立って木こりに行ったときのことが載っている。少し傍らの山の端に、常のものよりは汚らしく見えるものが一つ、羽を休めていた。それを見て、五人のうちの一人が、恐ろしげな山伏が立っていると言い出した。ところが他の四人の目にはそうは見えないので言い合いになったが、その一人だけは、確かに山伏なる者だと言い張って、四人の言うことを聞き入れなかったという。これは全く、その一人が妄覚幻視を起こしたものである。
原典より
それを見て中なる一人が恐ろしげな山伏の立ちいたるという。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。