汽車の窓の景色をめぐる問答
どんな伝承か
著者は十歳の時、仙台市の小学校へ転校した。鉄道が上野から青森へ一本だけ通じていた頃で、汽車はまだ珍しかった。ある日の課業中、先生から汽車の中にいて窓の外の景色を見ているとどういう気持がするかと尋ねられ、著者は「景色が早く走って、見えた物がすぐ見えなくなります」と答えた。先生はこれに満足せず、自分の体は動かないで森や家の方が動くように見えただろうと問い返したが、著者は自分の方が早く動くように思ったと答えた。先生は森や家が動くように見えるものだと説明し、少年は恥ずかしい気持でいた。のちに著者は、あの先生は汽車に乗っていなかったのであろうと述べている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。