荒木坂の屋台から消えた油揚
どんな伝承か
文化十一年六月三日の夜のこと。桜木町の近く、荒木坂で不思議なことがあったと人が語った。湯屋の門先に屋台を出し、油揚を揚げて売る店がある。その夜の五つ時分、中間ふうの男が三、四人来て買い、その場で食べはじめた。この手の客は無銭で逃げることがあるので目を離すまいとしたが、こらえきれぬほどの眠気に襲われ、つい寝入ってしまう。目覚めると人影はなく、引き出しに仕込んでおいた油揚は一つ残らず消えていた。六、七百文の損だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。