寺の通い帳で綿を買った母狐
どんな伝承か
石見国大田町の南端に慈雲寺という曹洞宗の寺がある。明治の少し前のこと、ある夜、寺の買物の通帳を提げた手拭かぶりの若い女房が、大字中町の綿商中島屋へ来て、二百目ほどの綿を買って去った。その月の末に中島屋から寺へ代金を取りに行くと、寺では綿を買った覚えがないといって争論になった。和尚が思い当たる節があるとして、寺の裏の雑木林にある狐の穴へ行って見ると、そこらに綿が散らばり、穴の中では狐が子を産んでいるのがわかった。そこで寺は異議なく綿の代金を支払ってやったという。
原典より
其月の末に中島屋から寺へ麗金とりに行くと、寺では綿を買うた覺えが無いとて爭論に及んだところ、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。