城山の麓で魚を買い占めた男
どんな伝承か
大田町から北へ一里ほど離れた漁村に住む魚商人の小三郎は、いつも海魚を籠に入れて四里ほど奥の佐比売村方面まで売り歩いていた。ある朝まだ暗いうちに、大田の城山の麓の二割というところに差しかかると、山道から男が現れ、館浦へ魚を買いに行く途中だと言って、値切りもせず紙幣で魚をすべて買い取っていった。喜んで帰宅した小三郎が財布の中を確かめると、紙幣は紙切れと柿の青葉に変わっていたという。これに懲りて、小三郎はそれ以降、遠方への魚売りをやめてしまった。
原典より
小三郎は大に喜び、今日はラクをしたとて、夜の明けたころ我家に歸つて寝込み、近くに起きて、財布の中の錢を檢べると、四五枚の紙片や柿の青葉が一二枚現はれたので仰天をした。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。