留守番の老婆を迷わせた狐
どんな伝承か
石見国邑智郡君谷村の農家日高政市が女房と一緒に隣村の女房の実家へ招かれた日、留守番の老母マサが夕方、裏の井戸端で食器を洗っていると、犬のようなものが来て皿の魚の骨をくわえかけた。飼い猫にやるつもりだったので水をかけて追い払ったが、それは実は狐だった。家に入ると急に寂しくてたまらなくなり、戸締まりをして息子夫婦を迎えに出た。日露戦争で戦死した次男の石碑の下で隣の嫁のナツに会ったと思い込み、連れ立って歩くうち、小屋の下で竹竿に突かれるような感じがしていよいよ心が乱れた。帰ってきた息子夫婦も他人と見て先へ進もうとし、ナツの姿もないので、夫婦は狐に化かされていると悟った。
原典より
政市夫婦の目には、ナッが居ないのみならず、婆さんの狀態が怪しいので、狐にばかされて居るのだと氣附いた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。