城山で油揚げの箱を奪われた男
どんな伝承か
石見大田の隣村、刺鹿村字諸友の豪家福間家で、仏事の前日、出入りの男を大田町へやって大きな油揚げを一箱取りに行かせたが、男はそれきり戻らず、翌朝別の者を出して注文し直す騒ぎになった。男は法事の翌日、気の抜けた有様でぼんやり福間家へ帰ってきた。着物も油揚げを包んだ大風呂敷も裂け目だらけで、箱の油揚げは一枚も残っていなかった。聞けば、大田町で油揚げを買って背負い、新市の上の旧道を帰るうちに日が暮れ、見知らぬ男に城山へ連れ込まれ、茂みの中を夜昼なく連れ回されて、何度も箱を下ろさせられた気がするが、詳しくは覚えていないという。
原典より
着衣は勿論のこと、油揚箱を包んだ大風呂敷も裂目だらけで、箱の中の油揚は一つもないと云ふ惨めさであつた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。