足の指を次々に呑む小蛇の怪
どんな伝承か
島根県安濃郡刺鹿村大字西川の馬追い、伝六は、夏のある日、素足に草鞋で村の猪谷の山奥へ草刈りに出かけた。木の根に腰かけて煙草をふかしていると、三尺ほどの蛇が来て右足の親指の腹を舌でなめ始めた。面白がって眺めていると、蛇は親指を付け根まで呑み込み、続けて隣の指、中指、四本目と、口を際限なく横に広げて呑んでいった。ふと我に返って恐ろしくなった伝六は、笹の小枝で煙管のヤニをかき出して蛇の口に塗りつけた。蛇はあわてて指を吐き出し、谷川のほうへ逃げて行った。二三十日後に同じ場所へ行くと、谷川沿いに一丈あまりの蛇の白骨が横たわっていたという。
原典より
蛇はやがて口を開けて傳六の太い拇指を呑みに懸ったので、馬鹿な奴だと思ひ乍らすけて居て、咬へ煙管で見て居る内に、蛇は譯もなく指のつけ根まで呑込んで了つて、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。