綿田山で重箱に飛びつく狐
どんな伝承か
川合村の那須清吉が、三里あまり先の柳瀬浦の親類の祝いに招かれ、夜更けに土産の重箱を背負って、提灯も持たずに国道を帰ってきた。字諸友の綿田山のあたりまで来ると、わけもなく髪の根が締まり、全身がぞくりと縮むような心地がする。狐に付けられたと察して用心していると、何かが何度も背中に飛びついてきた。重箱を胸の側へ回すと今度は前から飛びかかってくるが、暗くて姿は見えない。舌打ちしながら踏ん張って歩き続け、大田薬師の家並みまで来て、ようやく狐はあきらめて去った。帰って見ると、重箱を包んだ風呂敷には獣の泥足の跡と歯形が付いていた。
原典より
歸家して見ると、重箱を包んだ風呂敷には獣の土足の跡や齒形が附いて居た。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。