綿田山で大鰯を奪う狐
どんな伝承か
前の話の那須清吉の婿にあたる春日某は、大田町に住む兵隊帰りの若者だった。ある夜、一杯機嫌で、一里あまり離れた浦から魚籠に大鰯を入れて背負って戻る途中、前と同じ綿田山の手前にさしかかると、狐が背の魚籠に何度も飛びついてきた。気を引き締め、拳を振り回しながら七、八町ほど歩くあいだにも、さらに五、六度飛びつかれたが、これも大田薬師のあたりで放してもらえた。帰って中を見ると、鰯は三分の二ほども奪われていた。刺鹿村から鳥越村にかけては、昔から悪い狐がいることで知られた土地だという。
原典より
歸つて見ると、鰯は三分の二ばかり奪はれてゐた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。