虐待を訴えた治右衛門家の飼馬
どんな伝承か
三好想山は大磯で、平塚村の北半里にあるマサ村の材木商治右衛門の飼い馬が、人の言葉を話した件も聞いた。治右衛門の息子の錠五郎は気の荒い男で、いつも馬を手ひどく扱っていた。ある夜、その老母が手洗いに立って厩の前を通ると、鹿毛の馬が、毎日の荷が重いのはつらくもないが、この家の息子に毎日腹を蹴られるのがつらいと口にした。母は驚き恐れ、それからはこの馬を楽な仕事に回すことにしたという。錠五郎はふだんから馬に一駄も二駄も荷をつけ、ささいなことで腹を蹴る癖があったと、想山は錠五郎の友人の馬方谷五郎から直接聞いたと記している。
原典より
或る夜其老母が手水に立つて厩の前を通ると、鹿毛の馬が、毎日の荷の重いのは太儀にも無いが、此家の息子に毎日腹を蹴られるのが辛いと言つたので、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。