禅をやめた君原嘉重と禅魔の気瘤
どんな伝承か
京都の市外、嵯峨に住む君原嘉重は、南天棒の門下で十五年も禅に打ち込んできた人だった。大正八年、禅に凝っても今の世では役に立たず、かえって社会で働けなくなると考えて、修行をやめる決心をした。座禅をぴたりとやめると、妖しいものが見えたり、眠ろうとすると何者かに目や鼻をいじられて眠れなかったりする怪異が始まり、やがて禅魔が廃禅を阻もうとしているのだと分かった。静岡の長沢雄楯を頼ったが効き目はなく、あれこれ手を尽くしてようやく禅魔を追い出せた。抜ける際、右腕に桃ほどの気瘤が現れて音を立てて移り、梅ほどに縮んで人差し指へ進み、指の腹を裂いて胆のような物を落とすと、それは畳の上で消えた。
原典より
斯く決心をしてから、毎日の業にして居た座禪をフッリと廢止したところ、俄然奇怪な現象が起り出した。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。