嫁を罵った者に次々と憑く犬神
どんな伝承か
芸州高田郡のある村の金子善太郎氏は、石州邑智郡の富豪の娘(十九)を嫁に迎えたが、嫁の実家が犬神の血筋と知れ、親類は次々と縁を切っていった。父の友右衛門は動じず、犬神の血すじなど今の文明開化の世に古い話だとはねのけた。近隣でもこの噂が広まり、なかでも嫁を口を極めて罵った友右衛門の甥・河野登八がついに犬神に取り憑かれ、さらに医師高橋隆伯の次女桃代も取り憑かれるなど、悪口や噂をした者が次々に犬神に憑かれてあられもないことを口走ったという。『読売新聞』に報じられた話である。
原典より
とりわけ、友右衛門の甥河野登八は、口をきわめてこの嫁をののしったので、遂に犬神にとり憑かれ、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。