小泉鉛山の坑内に出る敷次郎
どんな伝承か
長崎の辻野九華が円了に寄せた報告である。三十年余り全国の鉱山を巡った辻野は、古い鉱山には坑夫と見分けのつかない「敷次郎」という怪物が出ると聞いていた。顔は青白く、足音は人と同じだが言葉は通じず、鉱石を掘るような音を立てるという。報告の二十七年前に備中の小泉鉛山を訪れた辻野は、これを二度目にした。この山には開坑以来の死者を祀る若宮がある。ここの敷次郎は時々食べ物をせがみ、与えないと坑夫に噛みついたり仕事を妨げたりする。噛まれた傷は薬では治らず、仏前の打敷か袈裟の切れ端を焼いて練り、貼ると治るとされた。
原典より
即此山の敷次郎は時々食物を需むることあり、若し之を与へざれば坑夫に噛みつき、又は鉱業の妨害をなす—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。