武徳殿で死んだ身代わりの狐
どんな伝承か
『古今著聞集』によると、ある男が日暮れに朱雀大路を通ると、えもいわれぬ美女に出会った。言い寄って契りを結ぼうとすると、女はそうすればあなたは必ず死ぬと拒んだが、男は聞かない。女はやむなく、それなら自分が身代わりに死ぬので法華経を書いて供養してほしいと言い、一夜を共にした。明け方、女は男の扇を求め、証を見たければ武徳殿へ行けと告げて去った。翌朝男が行くと、狐が扇で顔を覆って死んでいた。男が七日ごとに法華経を供養すると、四十九日の夜の夢に女が天女に囲まれて現れ、忉利天に生まれたと告げたという。
原典より
男がその通り行って見ると、狐が顔に扇子をあてて死んでゐた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。